宗達アートクラフト

2026/09/19 21:03

あなたが大切にしているモノはどんな価値?  141.6gの価値




こんにちは。
東京銀器伝統工芸士上川宗達です。

先日、当工房へ一通のお問い合わせ(ご相談)をいただきました。  

ある方から「長年大切にされてきた金工作品の手放し方」
について、職人としての意見を聞かせてほしいという内容でした。  

そのお品物は、日本の伝統工芸を代表する名工の手による素晴らしい純金の作品でした。
しかし現在、金相場が歴史的な高騰を見せていることもあり、美術商や買取店での査定はどうしても
「純金(地金)としての重量換算」
が中心になってしまうとのこと。  

「美術品として溶かされずに残る価値はあるのか」

「このまま地金として評価されてしまうのが自然なのか」

「このまま地金として評価されてしまうのが自然なのか」  

大切にしてきた作品だからこそ、
単なる「金の重さ」として扱われてしまうことに迷いを感じていらっしゃいました。  

私自身、買い取りや鑑定を行う立場ではありませんが、工芸に携わる一職人として、そしてその巨匠の作品を深く尊敬する一人として、思いをお伝えさせていただきました。  

構造上の評価と、美術的価値の乖離
現在のように金相場が異常なほど高騰している状況では、流通市場が地金価格をベースに評価してしまうのは構造上避けられない側面もあります。
しかし、それは作品そのものの価値や作家の技量が低いからではありません。  

鍛金技法による繊細な打ち出し、緻密な意匠、職人が注ぎ込んだ膨大な時間と最高峰の技術。
それらは日本の伝統工芸の精髄であり、間違いなく

「次世代の職人のお手本となり、受け継がれていくべき美術的価値」

を備えています。  

このやり取りを通じて、私は工芸品や美術品には「3つの価値」が存在するのだと改めて実感しました。  

工芸品が持つ「3つの価値」


 1. 市場相場価値
買取査定やオークションなどで、その時々の市場や素材相場、希少性によって数値化される価値。  

 2. 使い手だけが味わえる本当の価値
長年愛用され、日々の暮らしの中で慈しまれ、使い込まれることでしか生まれない価値。  

 3. 歳月と物語を経て昇華する価値
大切に扱われた時間がストーリーとなり、時代を超えて新たな歴史的・文化的な意味を持つようになる価値。  

エルメス・バーキンが教えてくれること


この「3つ目の価値」を考えるとき、私はよく「エルメスのバーキン」の原型となったバッグのエピソードを思い浮かべます。
歌手のジェーン・バーキン氏が40年近く愛用し、傷や使い込みの跡、彼女自身の生活の気配が刻み込まれたそのひとつのバッグは、単なるブランド製品を超え、オークション等でも歴史的価値を纏った存在として世界中で高く評価されました。  

工芸品や美術品もまさに同じです。最初は素材や市場価格(1つ目の価値)から始まったとしても、使い手に慈しまれ(2つ目の価値)、時間を経ることで「物語」という新たな価値へ昇華していく(3つ目の価値)のだと感じます。  
「単なる素材の重さ」としてではなく、作品に宿るストーリーや時間、作家の想いにまで心を寄せてくださる使い手様と出会えたことは、作品にとっても、そして作り手側にとってもこの上なく幸せなことです。  

これからのものづくりへの想い
現在、当工房では金製品などの大量生産や一般的な販売形態ではなく、オーダーメイドを中心にお仕事をさせていただいています。それは、工芸品が「素材の価格(地金価値)」だけで判断されてしまう現状から、職人が丹精込めて作った
「作家と作品の価値」として正しく評価される世界へ昇華させたいという強い想いがあるからです。  

モノが溢れ、相場や数値ばかりに目が向きがちな現代にとても違和感があります。
手元にあるものの「ストーリー」や「時間」に目を向ける豊かな価値観を、これからもものづくりを通して勉強し伝えていきたいと思います。

プロフィール
11代続く銀細工の家に生まれ、人間国宝のもとで鍛金技術を修業したあと、当時30歳最年少の若さで東京銀器の伝統工芸士認定。
2021年浅草近くの蔵前にアトリエ店舗宗達アートクラフト株式会社設立。LEXUS NEW TAKUMI PROJECT東京代表、全国伝統工芸士会会長賞や東京手仕事プロジェクトでの優秀賞など、確かな実績を重ねながら国内外30ヶ国以上のファンが集まる。